冷蔵庫から出したチョコレートは、すぐ撮影してはいけない理由〜プロのフードカメラマンが最初に行う「温度を待つ」という仕事〜
- 笙子 太田
- 7月3日
- 読了時間: 4分
こんにちは。インバウンド・海外展開特化のフードカメラマン、太田笙子です。
チョコレートの撮影現場で、初めて立ち会われたお客様から聞かれる言葉があります。
「冷蔵庫から出したので、すぐ撮影できますよ。」
一見すると、とても自然な流れに思えます。
でも実は、私はその場ですぐにシャッターを切ることはほとんどありません。
むしろ、少し待つことがあります。
「せっかく早く準備したのに、なぜ?」
そう思われるかもしれません。
実は、この数分の待ち時間が、高級チョコレートの見た目を大きく左右することがあるのです。
冷たいチョコレートには「結露」が起こる
夏に冷たい飲み物をテーブルへ置くと、グラスの表面に水滴が付きますよね。
チョコレートも同じです。
冷蔵庫から出したばかりのチョコレートは表面温度が低いため、暖かく湿った空気に触れると空気中の水分が表面に付着します。
これが「結露」です。
肉眼ではほとんど分からないほど小さな水滴でも、高画質で撮影すると光を乱反射させ、チョコレート本来の美しい艶を失わせてしまいます。
さらに、この水分は撮影後にも影響を及ぼします。
結露は「白くなる原因」にもつながる
表面に付いた水滴は、やがて乾いていきます。
しかし、その過程で砂糖が表面に再結晶化し、白く見える「シュガーブルーム」が起こることがあります。
前回の記事でご紹介したブルーム現象は、保管方法だけでなく、このような温度変化でも発生することがあります。
つまり、「冷蔵庫から出してすぐ撮る」
という何気ない行動が、撮影中に商品の見た目を変えてしまうことがあるのです。
せっかく職人さんが美しく仕上げたチョコレートも、写真では本来の魅力を伝えられなくなってしまいます。
プロは「温度を戻す時間」まで計算している
私が撮影するときは、撮影スケジュールに合わせて商品を冷蔵庫から出します。
ただし、すぐには並べません。
スタジオの温度や湿度を見ながら、チョコレートがゆっくり室温になじむ時間を確保します。
もちろん、長時間放置するわけではありません。
高級チョコレートは温度が上がりすぎても表面が柔らかくなり、指紋が付きやすくなったり、艶が失われたりします。
つまり重要なのは、「冷たすぎず、温まりすぎない状態」を見極めることです。
この判断は、撮影経験を重ねるほど重要だと感じています。
実は、撮影より準備の方が時間をかけている
フード撮影というと、カメラや照明の技術を想像される方が多いかもしれません。
でも実際には、
「どの順番で撮るか」
「いつ商品を出すか」
「どの商品から撮影するか」
こうした準備に多くの時間を使っています。
例えば、箱入りの商品や個包装の商品は先に撮影し、最後に裸のチョコレートを撮ることも少なくありません。
そうすることで、最も繊細な商品を最も美しい状態で撮影できます。
お客様から見ると何気ない段取りですが、その積み重ねがブランド写真の品質を支えています。
ECサイトでは「艶」が美味しさを伝える
高級チョコレートを購入するお客様は、実際の商品を見ることができません。
だからこそ、写真から受ける印象が購買判断に直結します。
艶のあるチョコレートを見ると、口どけの良さや上質なカカオの香りまで想像してしまうものです。
逆に白く曇った表面や水滴が残った写真では、本来の品質とは関係なく「古そう」「管理が悪そう」という印象を与えてしまう可能性があります。
商品は変わっていないのに、写真だけで価値が下がってしまう。
それはブランドにとって、とてももったいないことです。
シャッターを押さない時間にも価値がある
フードカメラマンの仕事は、写真を撮ることだけではありません。
商品の状態を見極め、最も美しく見える瞬間を待つことも、大切な仕事です。
特にチョコレートのような繊細な食品は、数分の温度変化で印象が大きく変わります。
だから私は、必要であれば「まだ撮りません」とお伝えすることがあります。
一見すると遠回りに思えるかもしれません。
でも、その数分がブランドの価値を守り、お客様に「美味しそう」と感じてもらえる一枚につながります。
海外市場では、写真そのものがブランドの品質を判断する材料になります。
だからこそ、高級チョコレートの撮影では、カメラの性能だけではなく、食品の性質を理解した撮影設計が欠かせません。
商品の魅力を最大限に伝えるビジュアル制作をご検討でしたら、お気軽にご相談ください。
参考資料
・一般社団法人 日本チョコレート
・ココア協会「チョコレートのブルーム現象について」
・株式会社明治「チョコレートのブルーム現象に関する解説」
・気象庁「湿度・結露に関する基礎知識(2023年以降公開情報)」
※本記事は、フードカメラマンとしての撮影現場での実務経験と、公開されている技術情報をもとに執筆しています。

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