なぜ人は成分ではなく物語で食べ物を選ぶのか
- 笙子 太田
- 6月30日
- 読了時間: 5分
こんにちは。インバウンド・海外展開特化のフードカメラマン、太田笙子です。
先日、麹甘酒の撮影をしていた時のことです。
商品の開発背景を伺っていると、こんなお話を聞きました。
「もともと甘いものが止まらなかったんです。」
クッキーやチョコレートを毎日のように食べていた女性が、ある日甘酒に出会った。
そして少しずつ生活が変わっていった。
私はその話を聞いた瞬間に思いました。
人は商品を買っているようで、実は物語を買っているのではないか、と。
もしこれが、
「米麹100%です」「砂糖不使用です」
という説明だけだったらどうでしょう。
もちろん商品の魅力は伝わります。
でも正直なところ、記憶には残りにくいかもしれません。
一方で、
「甘いものがやめられなかった女性が出会った甘酒」
と言われると、少し気になりませんか。
そこには人の人生があるからです。
私たちは成分表で商品に惹かれない
考えてみると不思議な話です。
スーパーには似たような商品が並んでいます。
同じような原材料。
同じような価格帯。
同じようなパッケージ。
それでも売れる商品とそうでない商品があります。
なぜでしょうか。
それは人が理屈だけで選んでいないからです。
例えばワイン。
私たちの多くはブドウの品種や土壌成分を詳しく理解しているわけではありません。
それでも、
「三代続く家族経営のワイナリー」
「山の斜面で手摘みされたブドウ」
そんな話を聞くと、なぜか飲んでみたくなります。
チョコレートも同じです。
カカオ含有量の数字だけではなく、生産者のストーリーや産地の風景に心を動かされることがあります。
人は成分表で恋をしません。
人が好きになるのは、その奥にいる誰かの物語なのだと思います。
アメリカの抹茶カフェが撮りたかったもの
実は最近、とても印象的なお問い合わせをいただきました。
アメリカで抹茶カフェを運営されている方からの撮影相談です。
私は最初、抹茶商品の撮影依頼だと思っていました。
ところが違いました。
その方が撮影したかったのは、抹茶そのものではなかったのです。
わざわざ日本まで来て、
抹茶の産地、茶畑、生産者、製茶の工程
そんな背景を撮影したいというご相談でした。
私はその話を聞いて、まさにこれだと思いました。
海外のお客様は抹茶の栄養成分だけを買っているわけではありません。
日本の茶文化を買っています。
何百年も続く歴史。
山間部に広がる茶畑。
丁寧に育てられた茶葉。
職人の技術。
そうした背景すべてが商品の価値になっているのです。
だから彼らが本当に欲しかったのは商品写真ではなく、物語の写真だったのです。
海外では「何を作ったか」より「なぜ作ったか」
私はインバウンド向けの撮影をすることが多いのですが、日本と海外では大きな違いを感じます。
日本では、品質が良いこと・技術力が高いこと・素材が優れていること
を伝えようとします。
もちろんそれは間違いではありません。
実際、日本の食品は世界的に見ても非常に高品質です。
ただ、海外ではそれだけでは十分ではないことがあります。
むしろ、
なぜ作るのか。
誰が作るのか。
どんな土地で作られるのか。
そうした背景が重視される傾向があります。
例えばワインならブドウ畑。
チーズなら牧場。
オリーブオイルならオリーブ農園。
商品単体ではなく、その土地ごとブランドになっています。
日本の食品も本来は同じはずです。
味噌にも。
醤油にも。
日本酒にも。
甘酒にも。
世界に誇れる物語があります。
フードカメラマンは物語を撮っている
私はよく、「料理を撮る仕事ですよね」と言われます。
もちろん料理も撮ります。
でも最近は少し違う感覚を持っています。
私が撮っているのは料理そのものではなく、その奥にある物語なのかもしれません。
料理人が何を考えて作ったのか。
生産者がどんな想いで育てたのか。
どんな人の悩みを解決したかったのか。
その物語が見える写真ほど、人の心を動かします。
逆にどれだけ綺麗な写真でも、背景が見えない写真は記憶に残りにくい。
だから私は撮影前のヒアリングが好きです。
商品のスペックを知りたいからではありません。
物語を知りたいからです。
あなたの商品には、どんな物語がありますか
もし食品を販売している方がこの記事を読んでくださっているなら、一度考えてみてください。
あなたの商品は、なぜ生まれたのでしょうか。
どんな悩みから始まったのでしょうか。
どんな景色の中で作られているのでしょうか。
お客様が本当に知りたいのは、成分表に書かれている数字ではないかもしれません。
その商品が生まれた理由かもしれません。
甘いものがやめられなかった女性が出会った甘酒。
アメリカの抹茶カフェが日本まで撮影に来た茶畑。
どちらも売っているのは商品ではありません。
物語です。
そして私はこれからも、その物語を写真で伝えていきたいと思っています。
食に、物語を。
フードカメラマン 太田笙子

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