器の向き一つで料理の格が変わる理由〜料理は器の上で完成する〜
- 笙子 太田
- 6 時間前
- 読了時間: 4分
こんにちは。インバウンド・海外展開特化のフードカメラマン、太田笙子です。
料理の撮影をしていると、お客様からこんな質問をいただくことがあります。
「器って、どちら向きでも同じじゃないんですか?」
実は、この質問に対する答えは「違います」。
もちろん、すべての器に決まりがあるわけではありません。
でも、日本の和食器には「こちらを正面にして使ってほしい」という、作り手の意図が込められているものが数多くあります。
そして、その向きを理解して撮るかどうかで、料理の印象は大きく変わることがあります。
■ 器にも「正面」がある
以前、陶芸作家さんの作品を撮影させていただいたときのことです。
器を手に取ると、作家さんが静かにこう教えてくださいました。
「こちらが正面になります。」
最初は、「どこが違うのだろう?」と思いました。
でもよく見ると、釉薬の流れ方や模様の入り方、高台の位置まで、すべて計算されていました。
一番美しく見える角度。
料理を盛り付けたときに、一番映える方向。
そこまで考え抜いて、一つの器が作られていたのです。
私はそのとき初めて、「器にも顔がある」という言葉の意味を実感しました。
■ 料理人は器を見て盛り付けている
料理人は、ただ料理を器に載せているわけではありません。
器の正面を確認し、その表情に合わせて料理を盛り付けています。
例えば、焼き魚なら頭と尾の向き。
お刺身なら妻(つま)や薬味の配置。
和菓子なら季節を感じる余白。
それらはすべて、器の正面を基準に考えられています。
だから、撮影の際に器を少し回転させてしまうだけで、料理人が考えた完成形とは違うものになってしまうことがあります。
ほんの数センチ。
ほんの数度の違い。
でも、その小さな違いが料理全体の品格を左右することがあるのです。
■ 写真は、料理だけではなく器も撮っている
フードカメラマンというと、料理ばかり見ている仕事だと思われがちです。
でも実際には、料理と同じくらい器を見ています。
料理が引き立つ角度はどこか。
器の模様が最も美しく見える位置はどこか。
料理と器のバランスが一番美しく見える構図はどこか。
料理だけを主役にしてしまうと、器はただの背景になります。
しかし日本料理では、器も料理の一部です。
だから私は、器を理解して初めて料理が撮れるのだと思っています。
■ 海外では器そのものにも価値がある
海外向けの撮影をしていると、日本の器に興味を持つ方がとても多いことを感じます。
「このお皿はどこで作られたの?」
「どうしてこんな形なの?」
「模様には意味があるの?」
日本では当たり前に使われている器も、海外の方にとってはアート作品のように映ることがあります。
だからこそ、器の向きを間違えて撮ることは、その作品の魅力を十分に伝えられていないということにもなりかねません。
料理だけではなく、器も日本文化の一つ。
海外へ向けた写真では、その文化まで届ける意識が必要だと感じています。
■ 「盛る」という言葉に込められた意味
日本語には「料理を盛る」という言葉があります。
この「盛る」という言葉には、ただ載せるという意味以上のものがあります。
器を選び、向きを決め、余白をつくり、季節を表現する。
そうして初めて、一皿の料理が完成します。
だから私は、料理写真を撮るときも、「料理を撮る」というより、「料理人と器の作家さんが一緒につくった作品を撮る」という気持ちでカメラを構えています。
■ 一枚の写真に、日本の美意識を残したい
最近、和菓子の正面や懐紙の折り方について学ぶ機会があり、日本文化には「知らなかった」では済まされない繊細なルールが数多くあることを改めて感じています。
器の向きも、その一つです。
料理が美味しそうに見える理由は、ライティングや構図だけではありません。
器をつくる人。
料理をつくる人。
そして、それを撮る人。
それぞれが同じ美意識を共有して初めて、一枚の写真に品格が生まれるのだと思います。
だから私は今日も、料理だけではなく、その料理を支える器まで丁寧に見つめながらシャッターを切っています。
株式会社Light&Green 代表取締役/フードカメラマン 太田笙子


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