食品サンプルは平気なのに、なぜAIの料理画像には違和感を覚えるのか?
- 笙子 太田
- 21 時間前
- 読了時間: 7分
こんにちは。
インバウンド・海外展開に特化したフードカメラマン、太田笙子です。
先日、「AIで作られた飲食店のメニュー画像に違和感を覚える」という話について考えていたとき、ふと疑問が浮かびました。
「でも私たち、食品サンプルは普通に受け入れてきたよね?」
昔ながらの飲食店の店頭にあるガラスケース。
そこには、ナポリタン、オムライス、カレーライス、クリームソーダ……。
本物そっくりではあるけれど、もちろん食べられません。
それを見て、
「これは偽物だから信用できない」
とは、あまり思わなかった気がします。
むしろ、
「美味しそう。この店にしよう」
と食品サンプルを見て店を決めた経験がある方も多いのではないでしょうか。
では、なぜ同じ「本物ではない料理」なのに、食品サンプルは受け入れられて、AIで作られた料理画像には違和感を覚えるのでしょう。
考えてみると、これは単なる「本物か偽物か」の話ではないように思います。
食品サンプルも、かなり堂々とした「偽物」です
食品サンプルは、本物の料理ではありません。
ソースも麺もご飯も、食べられるものではない。
それなのに、私たちは食品サンプルを見ながら、
「このオムライス、美味しそう」
「この定食、ボリュームありそう」
と判断します。
不思議ですよね・・・。
おそらく理由の一つは、食品サンプルが最初から「これは見本です」と宣言しているからではないでしょうか。
ガラスケースに入ったナポリタンを見て、本物のナポリタンが一日中そこに置かれていると思う人はいません。
見る側も、
「これは実際に提供される料理を模したもの」
という前提で見ています。
偽物であることを、お店側も隠していない。
お客さん側も、それを理解している。
そこには一種の「約束」が成立しています。
AI画像は、その約束が少し曖昧になる
一方で、メニューに料理の画像が載っていたらどうでしょう。
私たちは自然と、
「この店で出てくる料理の写真なんだ」
と思います。
もちろん広告写真なので、実物より魅力的に見えるように撮影されていることはあります。
光を作ったり、盛り付けを整えたり、最も美味しそうに見える角度から撮ったりする。
それでも、その中心にあるのは基本的に「その店で提供される料理」です。
ところがAI生成画像の場合、その料理そのものが存在していない可能性があります。
お肉の厚さも違う。
具材の量も違う。
盛り付けも違う。
場合によっては、AIが勝手に具材を足しているかもしれません。
つまり私たちが違和感を覚えているのは、
「偽物だから」
ではなく、
「どこまで本当なのか分からないから」
なのかもしれません。
面白いことに、AI画像は「美味しそう」では負けていない
ここで興味深い研究があります。
2024年にFood Quality and Preferenceに掲載されたCalifano & Spenceの研究では、実際に撮影された食品画像とAI生成画像の魅力度が比較されています。
297人を対象にした実験では、画像がAIか実写か知らされていない状態では、AI生成画像の方が魅力的、食欲をそそると評価される傾向が確認されました。
つまり、
「AI画像だから美味しそうに見えない」
という単純な話ではないのです。
むしろ、AIは色や艶、形、光の当たり方など、「美味しそう」に見える要素を強く作り込むことができます。
見た目だけなら、実写より魅力的に感じる場合すらあります。
Califano & Spence, “Assessing the visual appeal of real/AI-generated food images”, Food Quality and Preference, 2024.
それでも「AIです」と知ると評価が変わる
さらに面白いのが、その画像の“出自”を知らされたときです。
同じCalifano & Spenceの研究では、実写であることを知らされた画像は、魅力度の評価が上がる傾向が確認されています。
ここから、「見た目が良いか」だけではなく、
「本当に存在するものなのか」という情報そのものが評価に影響している可能性が見えてきます。
2025年には、Yijin SongとJongkeun Leeによる食品広告画像を対象とした研究も発表されています。
この研究では、韓国の消費者104人を対象に、AI生成画像か実写かという違いに加えて、「AIで作られた画像」「写真」といった出典情報の違いも検証されました。
結果として、画像そのものがAI生成か実写かという違い以上に、
「写真である」
と説明された場合の方が、事実性の認識、視覚的満足度、ブランドへの態度、購入意向で一貫して高い評価を示したと報告されています。
Yijin Song & Jongkeun Lee, “A Study on Consumer Perceptions of AI-Generated Advertising Images: Focusing on Food Photography”, 2025.
これはかなり興味深い結果です。
人は料理写真を、単に「美味しそうかどうか」だけで見ているわけではないのかもしれません。
「本当に存在する料理なのか」という情報も、無意識に含めて判断しているように見えます。
食品サンプルとAI画像の違いは「嘘をついていないこと」なのかもしれない
そう考えると、食品サンプルが受け入れられてきた理由も少し見えてきます。
食品サンプルは本物ではありません。
でも、
「私は本物ですよ」
という顔をしていません。
あくまで、
「このお店では、だいたいこんな料理が出てきますよ」
と伝えるための見本です。
だから見る側も安心して「見本」として受け取ることができます。
一方、AI生成の料理画像が何の説明もなくメニュー写真として置かれていた場合、
「これは実際の料理を撮影した写真なのか?」
「AIで作ったイメージなのか?」
「実際に注文すると、どこまで同じものが出てくるのか?」
という境界線が分からなくなります。
もしかすると人は、「偽物」そのものが嫌なのではありません。
「本物なのか、偽物なのか分からない状態」が嫌なのかもしれません。
これは「写真とは何か」という問題にもつながってくる
そして私は、この話がこれから写真業界にとってかなり重要になってくると思っています。
これまでは、写真を見ると無意識に、
「カメラの前に何かが存在して、それを撮ったもの」
だと思っていました。
料理写真なら、
「少なくとも、この料理は撮影した瞬間には存在していた」
という前提がありました。
ところが生成AIの登場によって、その前提が崩れ始めています。
ものすごくリアルなステーキの画像があっても、そのステーキはこの世に一度も存在していないかもしれない。
これは写真の技術の問題というより、
「画像を見るという行為そのもの」
が変わり始めているということなのだと思います。
これから「実際に撮った」ということ自体に価値が生まれるかもしれない
生成AIの画像は、これからさらに自然になります。
「AIっぽいから分かる」という時代は、おそらく長くは続かないでしょう。
そうなったとき、逆に価値を持ち始めるのが、
「これは実際の商品を撮影した写真です」
という事実なのではないでしょうか。
料理の焼き色、少し不揃いな野菜、本当に流れた肉汁、実際に立ち上った湯気、本当にその店で使われている器など・・・
今までは当たり前すぎて、わざわざ説明する必要のなかったことです。
でも、何でも生成できる時代になると、
「実際に存在したものを撮った」
ということ自体が、ひとつの情報になる。
そんな時代が来るのかもしれません。
食品サンプルから考える、これからの料理写真
食品サンプルとAI生成画像。
どちらも本物の料理ではありません。
それなのに、私たちの受け取り方はずいぶん違います。
その違いは、
「リアルに見えるか」
だけではなく、
「これは何なのかが分かっているか」
そして、
「実際の商品との関係が信頼できるか」
にあるのではないでしょうか。
AI画像が悪いわけではありません。
食品サンプルと同じように、
「これはイメージです」「これはAIによる表現です」
という前提が共有され、その使い方と目的が明確なら、これから当たり前の広告表現の一つになっていく可能性もあります。
ただ、食品を売るためのビジュアルには、「美味しそう」だけでは足りない。
「これは本当に食べられるものなんだ」
「注文したら、この体験が待っているんだ」
と思えること。
食べ物という、とても身体的でリアルなものを扱うからこそ、「美味しそう」と同じくらい「信じられる」が大切なのではないか。
食品サンプルの並んだ昔ながらのメニューケースを思い浮かべながら、そんなことを考えました。
参考資料
Califano, G. & Spence, C. “Assessing the visual appeal of real/AI-generated food images”, Food Quality and Preference, 2024.
Yijin Song & Jongkeun Lee, “A Study on Consumer Perceptions of AI-Generated Advertising Images: Focusing on Food Photography”, 2025.
インバウンド・海外展開を見据えた料理・食品撮影についてのご相談は、フードカメラマン 太田笙子までお気軽にお問い合わせください。



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